たたみ・ミニフォーラム in 川越
センター試験の初日関東地方を襲った大雪の中、武州河肥の岡田畳本店本社2階にある「畳のショールーム」は、近県から集まった40名の熱気で大いに盛り上がりました。まず会場に入ると無形民俗文化財に指定された川越木遣保存会の木遣で迎えられました。
大沢 匠氏の司会で第一部、山口昌伴氏が『世界の畳・床座の文化』を語る。
第二部は岡田本店取締役の岡田暁夫氏が『畳の現在』を語る。
第三部「『畳文化の未来』を考える」は、川越市の重要文化財に指定された木造建築で営業しているイタリア料理店に場所を移し『座の文化研究所』設立の提案と採択に発展。次回3月の再会を約束してお開きとなりました。(新埜好一)
第一部 | 『世界の畳・床座の文化』を語る | 講 師 : 山口 昌伴氏(道具学会理事) |
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第二部 | 『畳の現在』を語る | 講 師 : 岡田 暁夫氏(岡田本店 代表取締役) |
第三部 | 『畳文化の未来』を考える | 司 会 : 大沢 匠 (道具学会理事) |
「世界一周たたみの旅(空飛ぶたたみ)」
山口 昌伴氏
40年ほど前ですか、和風というのはもうだめなんだ、という風潮でした。私もそういう風潮の一端を担っていました。生活者を啓蒙する、という意識があったのです。しかし、建築主からの話を聞くにつれ、何か間違ったんじゃないかと思いまして、生活研究に入りました。
沖縄に行ったときに、屏風(ヒンプン)というのがあって、普通日本本土のほうではインテリアの一部なのですが、玄関の外側にある。ということは、つくりの良い塀から内側はインテリアとして考えても良いのではないか。環境によってインテリアの考え方は変化していて、見に行くとヒントになります。
ヨーロッパでも北緯50度の線の文化を考えると、私達にとって何かヒントになるんではないかと思いまして考えていました。日本の洋館という借り物文化と思っていたものが、実は、函館の洋館などを取材すると借り物感がなく、確かに環境に適応して存在しています。ですから、住まいは環境の結晶であるといえます。それを見えなくさせたのが、西洋をモデルとした、西洋崇拝でした。
その点から見えてくることは、広い意味での畳文化も環境的な適応の末に、世界的に存在しているということです。つまり、広義には床の文化のなかに畳文化がある。床について考えると、畳が見えてくると思います。床の文化の中の畳ということで、今回のテーマは「世界一周たたみの旅(空飛ぶたたみ)」という風にしてみました。
まず、この会場で言うと床の日本の基本的なコンセプトが、よく表れているのですが、高さ方向で清浄さ、浄・不浄が分けられています。これは表裏でもあります。低いほうが不浄なのです。土間・高床に板の間と畳が分けてあります。床の間は別世界の表れとして段差が存在しています。西洋の文化は、不浄である床に家具を置いたのです。そこが日本文化との違いです。
そういう文化に照らして、これからは高さ方向の設計をしなおして行こう、ということが床のテーマになると思います。
道具学会の比較道具文化研究会で、モロッコに行ったときの写真です。砂漠は海と同じで、オアシスが島です。海洋文明と同じ様に天体を指標にして航行します。砂の海のようなものですね。いわゆる砂漠層環境という地帯で、砂漠に絨毯を敷くとそこが床になるわけです。
日本語の畳は畳というからには元々たためるものだったんですね。だから、漢字の「畳」とひらがなの「たたみ」と使い分けるようにしています。それを高品質化したのがカーペットなのです。たためるたたみの最たるものはカーペットで、華麗で精巧な模様がしてあります。床座の世界のカーペットは、床を至近距離で見ることになるので色々な評価が生まれます。それで模様の技巧が発達してくるのです。
辺境だけではなくフランスにも行きます。フランス人がオリエントに憧れて作った王立の技術センター・博物館があります。ゴブラン織の工場で国産のものを制作する目的で設立されたのです。フランスの室内に絨毯を敷くと家具で見えなくなる。そこで壁掛けにしました。これがゴブラン織の壁掛けになったんです。たたみを壁にかけるという、漫画みたいですけど、タペストリーの文化をつくっていくのです。西洋人は椅子の脚を切らなかった。だから壁掛けにした。彼らの間違いは、たためるたたみの最高峰であるカーペットに憧れて持ち込んだのはいいが、靴を脱がなかったというところにありました。椅子の脚を切っていたら別の文化がつくられていたと思うのです。
真空掃除機、あれは床の文化の誤訳なのですね。精巧な模様のしてあるカーペットを土足で歩かなければいけない文化の必然的な帰結として、掃除機の歴史は始まります。生活の矛盾の解決のための一番最たるものは掃除機でしょう。1900年代になると電気掃除機が出てきます。掃除機の普及は日本では90%以上です。ヨーロッパで、カーペットの生活の矛盾解決のために生まれた掃除機を、日本では畳に使ったということは、漫画のようです。それから日本でもカーペットが普及し、現在、新築の家一見あたりの畳は6畳を切るまでになりました。
日本で椅子座になってしまって、失ったものは何だろう? と考えましたら、七五三や茶道の着付けが出来る場所が無いんですね。床に置いたら着物が穢れるのですね。床は本来不浄ですから。他には、かるたや福笑いが出来ない、落語も演じる側にとっては畳に正座でないと出来ないでしょう。
国立民族学博物館では研究室内が椅子テーブルなのです。和服の文化を研究しているセクションで、そういうわけで畳の部屋を必要として、8畳ほどの畳の部屋を作りました。そこでわれわれ食文化研究のセクションは酒を飲みにそこを使わせてもらっています。ソファでは、なんとなく雰囲気が出ないのです。このように、畳の上でないと出来ないことはたくさんあります。
床の世界で浄・不浄がどう扱われているかというと、カーペットは際を境として浄・不浄に分けられています。たとえば、ネパールで台所の取材をしたときに、子どもが呼びにくる。あっちでご飯食べているよ、と言うので行って見ると、ござを敷いてご飯を食べていますが、皆端っこに座っている。際を境にして、不浄なのです。
土間は意味的には不浄ですが、牛の糞でペースト状にしたものを塗ってある。枯れ草が牛の体を通っただけですから汚くないのですね。干草が微細な粉末状になっているのです。七つの工程を経て仕上げの塗料にしています。これがネパールでの経験です。
砂漠の砂の上をカーペットを敷いて引っ張ると滑ります。橇のようになります。アラビアンナイトもそういうところからくる話でしょう。ああいう話も環境的な裏づけがある話なのです。今回は「空飛ぶたたみ」という題にしよう、と思ったのもそういうことからです。似たような例では、西洋の魔女はほうきに乗って飛ぶ。これはどういうことか。たぶん森林文明だったからなのでしょう。現在、ヨーロッパは森林は無く、禿げていますが、産業によって燃料を必要としたためです。そして産業革命によって石炭を燃料とする時代へ移行しました。
森林文明は石炭文明への移行期に火を囲い込んで行きました。そこで誕生したのがキッチンです。キッチンは火があるところ、という意味です。西欧、北緯50度近辺は二期なのです。冬を生き延びるためにキッチンがあります。そういう意味では、キッチンは冬一期のためにあるといってよいのです。そういう西洋のキッチンを真似をしたのが今の日本のキッチンですね。しかし、日本は四季があり、料理にも反映していたわけですから、本来は台が要ったのです。だから台所というのです。日本は現在四季を取り混ぜて一期にしてしまった食生活をしています。西洋の、本来は一期のためのキッチンを使用して適応している、という事実は皮肉なものです。
こんな風にして、世界を探検しながら、住まいと環境との関係を読み直していこうと考えています。
パキスタンでは、座布団に脚が生えていました。空中に座面が浮かせてあるのではなく、20センチくらいの高さの椅子。西洋の椅子は座面の高さ40センチなので、高椅子と呼ぶことにしました。だからこの椅子は、腰掛けではなく尻掛けです。20センチから30センチの高さの椅子は平椅子と呼んでいます。それから、もう少し低くなると風呂場の椅子です。この高さのものを尻付き椅子と呼んでいます。日本の文化で珍しく椅子があるのはお風呂場なんですね。座面高さ18センチくらいですね。あれが弥生時代のものとして出土している。どのような経緯か知りませんが、江戸時代まで生き延びてお風呂場の椅子になった。ところが東南アジアになると尻付き椅子として家具になっています。しゃがんだときの尻を少し支えておくという家具です。床に尻を付くのではなく、ちょっと浮かせる。私はこういう低い椅子を見て廻っているのです。畳・床の高さくらいにまで上がったものとか、いろいろとバリエーションがあります。尻付き椅子から、平椅子までの高さの椅子の領域は、まだ椅子の家具史の中で位置づけされていないんですね。低い椅子に凝っている人はたくさんいます。床の世界の中にそういう低い椅子の世界が存在しています。こういう低い椅子に興味がある学者と知見を持ち寄って、もう一度床の世界を描き直そうかと考えているところです。そのなかに畳の姿も見えてくるだろうと考えているのです。これがその写真です。
これはエチオピアですが、アラブの古い町へ行きますと、通路の両側にに壁が迫っていて、迷路みたいです。壁から内側に入ると中庭になっていて、部屋がそれに向かって開いています。部屋の床が上がっているのが見えます。中庭も床が上がっているんです。部屋の入り口が土間です。その先に絨毯が何重にも敷き詰められている。そして壁のところまで来て、背もたれがある。それのバリエーションが幾つもあります。背もたれだけで、絨毯の上に座るわけです。日本でいう土間と上り框と板の間が土造りにしてあるのです。こういう風に、床が砂漠の民、砂漠層環境の生活の延長にあるわけです。直接床に座って背もたれがあります。これは韓国でいう内房(アンバン)のように女性と子どもの居室です。ここでは土間が狭くて日本の玄関の靴脱ぎのようになっています。そしてマットレスが敷いてあります。厚みがあって日本の畳に近いです。たためるたたみです。靴は脱いで上がります。靴は家の外で脱ぎます。床は、リビングルーム的な使い方の居室では絨毯で、寝室ではクッションにしてあるわけです。掛け布団など寝具が置いてあります。掛け布団のたたみ方も色々あります。
たためるたたみの元祖というようなことが言えるのです。上り框があって板の間との間に小段があります。この部分が一番使いやすかったりします。この高さが平椅子の高さになのです。
このように床の世界には世界的な広がりとバリエーションがあります。こういうことから、畳についての未来も見えてくるのではないかと考えています。
山口昌伴(やまぐち まさとも)氏プロフィール
1937年生まれ。早稲田大学第二理工学部卒。
一級建築士。GKデザイン機構。GK道具学研究所所長、日本生活学会理事、道具学会理事
専門領域:道具学、住居学、生活学
著書:『図説 台所道具の歴史』『台所空間学』『世界一周台所の旅』『地球道具考』
『和風探索』『図面を引かない設計術』『日本人の住まい方を愛しなさい』ほか多数
日 時: | 2006年1月21日(土)14:00~16:00 |
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会 場: | 埼玉県川越市「岡田畳本店」たたみショールーム |
定 員: | 30名先着順 |
参加費: | ¥500(申込者には地図をFAXします) |
申 込: | 岡田本店 TEL 0492-22-2141 FAX 0492-24-7192 |
主 催: | 株式会社 岡田本店 |
協 賛: | 道具学会 |
『坐る文化研究所』のご案内
坐る文化研究所
所長:山口 昌伴(やまぐち まさとも)
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